出会いの賢い情報
口直しにスコッチウイスキーはどうだろう。
飲兵衛必見試飲ができる、電動カートでウイスキーの歴史を案内してくれる、という文句にひかれて、スコッチウイスキー・ヘリティジセンターに足を向けた。
飲み助がスコットランドに来た以上は、お参りせずばなるまい。
フロントで料金表を見ると、一人五・五〇ポンド。
その下に、シニアアダルト三・八五ポンドとある。
これは何かと聞くと六〇歳以上との答え。
オーというと、残りの二人もそうかと、ワイフたちを指差す。
黙って笑っていたら、まあ、遠いところから来たんだからとか言いながら、三人をシニアにしてくれた。
ユーモアがわかるんだなぁと、うれしくなった。
でも、次のボートン・オン・ザ・ウォーターの縮尺模型村モデル・ヴィレッジでは、シニアでといってもまるで相手にされずノーの一点張り。
日本人は若く見られてしまうようだ。
さて、このウイスキーの旅、日本人も多く訪れるらしく、日本語の説明用ハンディホンも用意されている(無料)。
まず、ビデオのイントロがあり、もちろんストレートのスコッチのショット・グラスが配られる。
やはり上等な味の一品。
ほんわかとしたところで次のブースへ。
造り方を大型模型で見せ、サンプルを手に取らせ、匂いを嘆がせながらモルトウイスキーとグレンウイスキーの違いを認識させる。
次に立体画面で、ブレンドウイスキーは多いものになると四〇種ものブレンドが行われるとの説明。
いよいよ電動カートに乗ると、まず、ドイツ人夫婦がドイツ語の説明付きでスタートし、次に英語のカート、そして日本語の順に連なって走る。
レールの左右には、その時代時代の人形や犬、なんと匂いまで変わっていく感じがする--のは気のせいか。
三〇〇年のスコッチウイスキーの歴史が、味、匂いとともに見事に楽しめる。
終わって出たところが、バーとショップで、ずらりと並んだスコッチから好きなものが試飲できる(有料)。
ボトルも割引きで買えるといううまい仕組みだった。
湖水地方この朝は、真っ暗な六時にバスに乗る。
二月に入って観光シーズンも終了したのだが、我々のために、ヒルトップにあるピーターラビットの故郷〟ビアトリクス・ポターの家が特別にオープンしてくれることになった。
約束の時間は一〇時。
エジンバラからだと四時間かかる。
そのため、朝六時の出発だ。
グループでなければナショナル・トラストもこんな便宜を図ってはくれなかっただろうし、個人の旅ならまず、かくも早朝に弁当を抱えて早出もしなかったろう。
パック旅行の一つの功罪でもある。
スコットランドとイングランドとの国境の川を越え、道をA66にとって、湖水地方に入って行く。
英国の地図のほぼ真ん中から左に目をやったあたりに、房総半島ほどの国立公園地帯が広がる。
正式にはカンブリア地方というが、レイク・ディストリクト=湖水地方、といった方が一般的だ。
大きな湖だけでも一〇を数え、大小の池まで数えると五〇〇にもなるという一帯。
四五〇〇年前、氷河によって造られたといわれ、湖はそのほとんどが細長い形をして横たわっている。
英国最大の湖、ウインダミア湖もその一つ。
南北に一七キロ、横は広いところでも二キロはどしかない。
五~一〇月のシーズンにはクルーズ船も多く往き来する。
そしてこの周りにはグラスミア、ウインダミア、ボウネス、アンプルサイド、ホウクスヘッド、ニアソーリーなど、ワ-ズワースやポターをはじめとする文人・芸術家たちに好まれ、一九世紀から愛されてきた村が建ち並ぶ。
ここの紅葉がまた素晴らしい。
観光シーズンは一〇月で終わってしまうのだが、一一月に入ったばかりの今は、もしかすると最も美しい季節なのかもしれない。
日本の紅葉の紅と黄も美しいが、ここの紅葉はもっと多彩だ。
なだらかな丘に緑の牧草が広がり、点々と、グレーの羊たち。
向こうの湖は突然の駿雨の中、陽光を湖面に光らせながら青く燈めく。
対岸の山には黄や茶や赤をそれぞれまとった木々が、間を空けてまばらに、それぞれが自己を主張しながら連なっている。
その中に、真っ白い壁の家がすっくと立つ。
その色、形のみごとなまでのバランス。
雨がサーッと上がると、また前と違ったふうに風景が色付く。
現地のガイドは、一一月に仕事をしたのは初めてという。
ショップは閉めてしまっている所もあるが、もったいない。
これも英国の頑固さか。
ただこうした中で自然や歴史を守り続けようとする団体、ナショナル・トラストには頭が下がる。
ピーターラビットの作者ポターの家もそのーつだったが、この後もいくつか出会うことになる。
彼らが守るものはきっと多いにちがいない。
シェイクスピアは実在しなかったとする説があるが、ここまで来ては、材料はどこにも発見できない。
それどころか、一つひとつがその生存の証で綴られ、埋め尽くされている。
ロンドンから西へ二〇〇キロ。
イギリスの中でも最もカントリーらしい風景の村々が織りなすコツウォルズの北にストラトフォード・アポン・エイボンはあり、シェイクスピアの故郷として知られる。
アン・ハサウェイの生家は茅葺きのしっかりした農家の建物で、彼の生家は大通りのヘンリー・ストリートの真ん中に、近代的なシェイクスピア・センターを隣に見て、場違いな感じで建っている。
このシェイクスピアの生家を訪れた有名人たちが、窓ガラスにダイヤモンドでサインした窓枠も保存されている。
キーツ、ウォルター・スコット、ハーマン・メルビル、マーク・トウエーン、チャールズ・ディケンズなど、その名を見ただけで、自分が今、ここにいることを誇りに思えるほど。
やはり、シェイクスピアは実在したのだIと信じざるを得ない思いに浸っていく。
もっとも、彼の母の家メアリー・ア-デンの家が、実は別物だったという報道も、その後あったのだが。
コツウォルズのホテルは、その昔、農家だったという建物で三棟に分かれていた。
隣は広大なシャルルコート公園で、かつては貴族の持ち物。
今はナショナル・トラストが管理している。
前にも述べたが、この団体は個人の拠出金などによって支えられる民間の団体で、その地域に入れる一日の車の台数を規制したり、保存すべき自然や歴史を維持管理したり、ショップなども自営している。
日本にもほしい存在だ。
コツウォルズは最もイギリスらしい田舎として、このところ人気のエリアといわれる。
古い英語で羊小屋のある丘を意味し、茅葺きやこの土地から切り出したライムストーンを材料に建てた蜂蜜色の家たちが、何百年もの昔からたたずむ村だ。
時代から取り残されたかのように、小さな村落が昔の姿そのままに静かに呼吸している。
外国なのに、なぜか心落着く村々ばかりだ。
映画のロケにもよく使われるチッピングカムデン、テレビ・映画などで働く新人類が戻ってきた村ブロードウエー、そしてリトル・ベニスといわれる人気スポット、ボートン・オン・ザ・ウォーターなどが、そこにある。
ミレニアムのロンドン二〇世紀から二一世紀へ、ミレニアムに力を入れているのは欧州でもイギリスだろう。
旅の最後の自由行動日は、クリスマスの飾り付けが始まっているロンドンで、その様子を見てみることにした。
何しろ一〇〇〇年に一度のチャンスだ。
中でも、名高いのがミレニアム・ドームとロンドン・アイか、日本で調べるとどちらも予約制だとか。
行っても入れないのだろうか、と不安になる。
まあ、その時はその時と。
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